東京地方裁判所 昭和53年(ワ)397号 判決 1980年10月30日
原告
本戸静
ほか一名
被告
株式会社小銭商川口
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して、原告本戸静に対し金一一九万四四五四円、原告本戸夕香子に対し金一八万三九〇九円および右各金員に対する昭和五三年一月二九日から完済まで各年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求はいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告
1 被告らは、連帯して、原告本戸静に対し金五三九万八七一五円、原告本戸夕香子に対し金一〇七九万七四三〇円および右各金員に対する昭和五三年一月二九日から完済まで各年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
二 被告ら
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第二当事者双方の主張
一 原告らの請求原因
1 被告株式会社小銭商川口(以下、被告会社という。)は飲食店(赤ちようちん)経営を目的とする株式会社であり、原告らの夫や父であつた亡本戸静雄(以下、亡静雄という。)は被告会社の川口支店の店長であつたものであり、被告門脇は同支店において亡静雄のもとで調理士として働いていたものである。
2 亡静雄は、被告会社代表取締役樋原茂則の指示により、定期的に、川口市末広町所在の被告会社の寮を見廻り検査することとなつていたところ、昭和五二年三月一二日、前記飲食店を閉めたのち、右指示により同寮を見廻るため、被告門脇に対し、同人の保有する普通乗用自動車(埼五れ七三三八号・以下、門脇車という。)に同乗せしめて、同寮へ赴くよう指示し、被告会社の業務執行のため、門脇車に同乗して、同月一三日午前零時四〇分ごろ、同市末広町一丁目二六番一六号先交差点に差しかかつた。したがつて、このとき、被告門脇も、被告会社の業務執行のため、同車を運転し同寮へ向つていたものである。他方、この時、同じく同交差点に差しかかつた有限会社八千代交通(以下、八千代という。)保有にかかる普通乗用自動車(埼五五あ五九六九号・以下、八千代車という。)を運転していた同会社従業員訴外増子武雄は、同交差点内において、八千代車を門脇車の側面に衝突させ、よつて、これに同乗していた亡静雄に頭部損傷の傷害を負わせ同人を死亡させるに至つたものである。しかして、右交通事故は、被告門脇と右訴外増子の前方不注視・安全運転義務違反の規定により発生したものである。
そこで、原告らの後記損害につき、被告門脇は民法七〇九条、七一九条所定の責任を、被告会社は同法七一五条、七一九条または自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条所定の責任を負うべきである。
3 原告らは、本件事故により亡静雄が死亡したため、次のような損害を被つた。
(一) 逸失利益金三九六三万二一四〇円
亡静雄は、本件事故当時、被告会社に勤務し、同会社より年間金二二二万七〇〇〇円の収入を得ていたが、同会社が昭和五三年二月倒産したので、この時点までは同会社における収入を基礎とし、それ以後は六七歳に達するまで昭和五三年度賃金構造基本統計調査報告書記載の産業計・企業規模計・男子労働者・旧中、新高卒の年齢別収入を基礎とし、本件事故時(満三六歳)から六七歳まで三一年間の亡静雄の得べかりし利益を、ライプニツツ係数を用い、生活費三分の一と考えて算出すると、別紙記載のとおり金三九六三万二一四〇円となる。
(二) 慰藉料金一〇〇〇万円
本件事故による亡静雄および原告らの慰藉料としては計金一〇〇〇万円が相当である。
(三) 葬祭費金五〇万円
(四) 弁護士費用金一二〇万円
原告らは、被告らが本件損害金を支払わないので、やむなく、本訴の提起を原告ら代理人に委任し、弁護士費用(報酬予定額も含む。)を支払うことを約束したが、その費用として右金員が相当である。
4 原告らは、本件事故により右のとおり合計金五一三三万二一四〇円の損害を被つたところ、保険より金三〇〇〇万円、八千代より慰藉料金四五〇万円、労働者災害補償(以下、労災という。)保険より葬祭料金二三万二六四〇円、労災保険年金三五万三三五四円、被告門脇より内入金五万円合計金三五一三万五九九四円を受領したので、これを右損害額から控除すると金一六一九万六一四六円となる。これを原告各自の相続分にすると、原告本戸静(以下、原告静という。)が金五三九万八七一五円、原告本戸夕香子(以下、原告夕香子という。)が金一〇七九万七四三〇円となる。
5 よつて、被告らに対し、原告静は金五三九万八七一五円、原告夕香子は金一〇七九万七四三〇円および右各金員に対する本訴状送達日の翌日である昭和五三年一月二九日から完済まで各年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。
二 被告らの答弁
1 答弁
請求原因1の事実は認める。同2の事実中、亡静雄が頭部損傷により昭和五二年三月一三日死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。同3の事実は知らない。同4の事実中、原告らが慰藉料金四五〇万円、葬祭料金二三万二六四〇円、労災保険年金三五万三三五四円、内入金五万円計金五一三万五九九四円を受領したことは認める。(ただし、同4の事実については被告門脇のみ)
2 主張(ただし、被告門脇のみ)
亡静雄は、原告ら主張のとおり、本件事故当時、被告門脇が拒むことの出来ない業務命令によつて門脇車に無償で同乗したものである。したがつて、亡静雄は、あるべき危険を承認していたとともに、被告門脇の上司として同被告の運行に対し、その走行道順、スピード、運転態度等運行上の諸点につき優位に立ち、これを支配し得る立場にあつたものである。よつて、同被告は、門脇車に対する自由な運行支配を部分的に排除され、逆に亡静雄は自ら同被告の運行を支配していたというべきであるから、亡静雄もまたその危険を負担すべきである。
三 右主張に対する原告らの認否
右主張事実は否認する。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 被告らの責任原因
請求原因1の事実、同2の事実中、亡静雄が頭部損傷により昭和五二年三月一三日死亡したことはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一ないし一〇、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、原告静本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、亡静雄は、かねて被告会社代表取締役樋原茂則の指示に基づき、月一回位の割合で定期的に川口市末広町所在の被告会社の寮の見廻り検査をすることになつていたところ、昭和五二年三月一二日、前記飲食店を閉めたのち、右指示に従い、同寮を見廻り検査するため、被告門脇に対し、同被告保有にかかる門脇車に亡静雄を同乗させたうえ、これを運転して同寮に行くよう指示し、被告会社の業務執行のため、門脇車助手席に乗り込んだこと、そこで、被告門脇は、被告会社の業務執行のため、門脇車を運転して同寮に向けて進行中、同月一三日午前零時四〇分頃、同市末広町一丁目二六番一六号先の十字型交差点手前の道路上に差しかかつたが、同交差点付近は見通しが悪い状況のもとにあつたのであるから、あらかじめ、左前方を十分注視しながら同交差点内に進入すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠つて同交差点に進入した過失により、偶々、門脇車進路と十字型に交差する道路の左側から同交差点内に進入してきた右訴外増子運転にかかる八千代車(八千代保有)の前部と門脇車の左側面とが衝突し、その結果、亡静雄が前記のとおり死亡したこと、そして、右事故発生については、右訴外増子にも右前方不注視の過失があつたことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠は存在しない。
以上の事実に照らすと、本件事故は、被告門脇と右訴外増子の前記各過失によつて発生したものであることが明らかである。したがつて、被告門脇は、本件事故によつて被つた原告らの損害につき民法第七〇九条所定の損害賠償義務がある。また、被告会社は、右損害につき同法七一五条所定ないしは自賠法三条本文所定の損害賠償義務がある。そして、被告らの右各債務は不真正連帯債務の関係にたつものである。
二 原告らの損害
成立に争いのない甲第四ないし第七号証、乙第一号証の一〇、原告静本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故により左記損害を被つたことが認められる。
1 亡静雄の分
(一) 逸失利益金二九九三万八一七六円
亡静雄は、本件事故当時、三六歳(昭和一六年八月二五日生)の健康な男性で、被告会社に勤務し、同会社より月平均金二四万円の給与の支給を受け、これにより原告らを含む家族の生計を維持してきたものであるが、本件事故に遭遇したため、左記のとおり得べかりし利益を喪失したものである。すなわち、亡静雄は、もし本件事故に遭遇しなければ、三六歳から六七歳までの三一年間就労することができ、かつ、この間右給与を下回らない金員を取得することができたものと認められる。そこで、右金員を基準とし、生活費三分の一と考えて、この間における同人の逸失利益をライプニツツ式計算方法によつて算出すると、金二九九三万八一七六円(金二四万円×一二月×2/3×一五、五九二八((三一年のライプニツツ係数)))となる。
なお、原告らは、右逸失利益の算出につき、被告会社が昭和五三年二月倒産したので、別紙記載のとおり、同年三月一日以降は同年度賃金構造基本統計調査報告書記載の産業計・企業規模計・男子労働者・旧中、新高卒の年齢別収入を基礎として計算すべきである旨主張しているところ、前掲各証拠によると、被告会社は昭和五三年二月ごろ事実上倒産したことが認められるけれども、本件全証拠によるも、同年三月一日以降において、亡静雄が本件事故当時の収入よりも多い右主張にかかる収入を同会社または他より得るであろうことを認めるに足る証拠はないので、右主張は失当としてこれを採用することができない。
(二) 慰藉料金六〇〇万円
本件事故の態様・程度、本件死亡に至る経緯等諸般の事情(ただし、後記同乗の点を除く。)を斟酌すると、亡静雄の慰藉料としては金六〇〇万円が相当であると認める。
以上のとおり、右逸失利益と慰藉料の合計は金三五九三万八一七六円となるが、原告静は亡静雄の妻、原告夕香子は亡静雄の長女であるところ、亡静雄が本件事故で死亡したため、法定相続分に従い、原告静がその三分の一に当る金一一九七万九三九二円の、原告夕香子がその三分の二に当る金二三九五万八七八四円の右逸失利益請求権および慰藉料請求権を相続したものである。
2 原告ら固有の分
(一) 慰藉料各金二〇〇万円
前記のとおり、諸般の事情を考慮すると、原告らの慰藉料としては各金二〇〇万円が相当であると認める。
(二) 葬祭費各金二五万円
本件事故により、原告らは、亡静雄の葬祭費として各金二五万円を下らない金員を支出したことが認められるが、これは本件事故による損害というべきである。
そうすると、右損害合計額は、原告静につき金一四二二万九三九二円、原告夕香子につき金二六二〇万八七八四円となる。
三 無償同乗
被告門脇の無償同乗の主張につき判断するに、前記事実、ことに、亡静雄が門脇車に同乗した経緯・目的、同人と運転者たる同被告との関係、本件運行と事故の態様等を総合して勘案すると、門脇車の運行は、同被告と比較すると、主として同乗者である亡静雄の利益のためになされたものであり、被告門脇の運行による利益は亡静雄に比し割合的に減少しているものというべきであり、損害の公平な分担を指導理念とする損害賠償法の趣旨に鑑み、民法七二二条を類推適用して右損害の全額から一〇パーセントに相当する金員を控除するのが相当であると判断する。
そこで、これに従つて計算すると、原告らの損害額は、原告静につき金一二八〇万六四五二円、原告夕香子につき金二三五八万七九〇五円となる。
四 損害の填補
前掲各証拠と成立に争いのない甲第八、第一〇号証によると、原告らは、自動車損害賠償責任保険より金三〇〇〇万円、八千代より慰藉料金四五〇万円、労災保険より葬祭料金二三万二六四〇円、労災保険年金三五万三三五四円、被告門脇より内入金五万円合計金三五一三万五九九四円を受領したこと(ただし、原告らが慰藉料金四五〇万円、葬祭料金二三万二六四〇円、労災保険年金三五万三三五四円、内入金五万円計金五一三万五九九四円を受領したことは原告らと被告門脇との間で争いがない。)が認められ、これに反する証拠はない。そこで、右金三五一三万五九九四円につき、法定相続分と同じ割合で、原告静が金一一七一万一九九八円、原告夕香子が金二三四二万三九九六円の損害の填補を受けたものとして、原告らの残損害額を計算すると、原告静のそれが金一〇九万四四五四円、原告夕香子のそれが金一六万三九〇九円となる。
五 弁護士費用
前掲各証拠によると、原告らは、被告らが本件損害賠償請求に関し、任意の支払いに応じなかつたため、やむなく、本訴の提起と追行を原告ら代理人に委任し、同代理人に対し弁護士費用を支払うことを約束したことが認められるが、被告らに支払いを命ずべき同費用としては、原告静につき金一〇万円、原告夕香子につき金二万円が相当であると認める。
そうすると、原告静の損害額は計金一一九万四四五四円、原告夕香子の損害額は計金一八万三九〇九円となる。
六 よつて、原告らの被告らに対する本訴請求中、原告静につき金一一九万四四五四円、原告夕香子につき金一八万三九〇九円および右各金員に対する本訴状送達日の翌日である昭和五三年一月二九日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本朝光)
逸失利益計算書
<省略>